火 打 山  澄 川 滑 降   

                              1995年5月7日(日)

                  山川 徳明(文)  花岡 幸晴 (ぶなの森同人)

 自宅 −−− 長野 −− 第2発電所付近ゲート −− 笹ケ峰 −−

  3:00     4:00      5:30           6:30〜8:00

−− 黒沢+−+高谷池 +−+火打肩 +−+黒菱川出合 +−+矢代川第3発電所

   11:30 12:00   13:00 13:45    16:00         18:30

 第2発電所付近ゲート −− 笹ケ峰 −− 自宅

    19:20          20:20     22:30


 7日は晴れるという週間天気予報とは裏腹に、上越地方はどんより曇って、

小雨が時折落ちてきた。

 第3発電所に車を1台置いておく計画だったが、第2発電所への分岐にゲー

トがあり、そこから先は一般車両通行止めであった。天気がはっきりしないこ

と、車が入れないこと等が重なり、今日はもうやめようかという気持ちになっ

たが、昨年も計画しながら実行できなかった澄川のことを考えると、なんとか

滑りたかった。隣の自衛隊の演習場に沿って林道があったので少し上がり、第

3発電所への道と接近したところに私の車を止め、花岡の車で笹が峰に向かう。

しかし、第3発電所に車が置けなかったということは、約1時間歩行が延びる

ことを意味する。この1時間は最後にきて効いた。

 笹が峰についても霧は晴れず、中止しようということで意見が一致し、帰り

始めるが、少し戻ると霧の間から青空と三田原山の稜線が見えるではないか。

一転して決行に傾き、結局、登山口にとんぼ返りして、支度して歩きだした。

 黒沢まで上がると、完全に青空になり、帰らなくてよかったな、という話に

なる。黒沢からは幾つかルートが採れるが、今日は弥八山の稜線に直接詰める

ルートを行く。このルートが一番最短なはずであるが、最後の急斜面はきつか

った。途中で私のビンディングのヒールが突然分解してしまう。一瞬、今日も

これまでかと真っ青になったが、はずれたビスが直ぐ下にころがっており、ド

ライバーで締めなおす。

 高谷池ヒュッテの前には10名位の登山者、スキーヤーがいた。休んでいる

と、山渓ジョイのカメラマンが写真を撮らせてくれといってきた。長く山やっ

ているが、こんなことは初めてなので、気を良くして撮らせる。

 最後の登りを詰めて火打山の肩に到着。もう午後1時だ。今日は夜7時半か

ら区の会合があってそれまでに帰宅したかったが、微妙な状況だ。そういえば、

去年もそんなことがあって皆に迷惑を掛けた。全く進歩の無い自分を反省する。

今日はもう、遅くなりそうだったら諦めて電話連絡すればいいと思った。しか

し実際には電話連絡できるという見込みすら甘かった。

 40分ほど休み、滑降の準備をする。本当は山頂から滑りたかったが、この

先何があるか分からなかったので早々に滑降を始める。

 上部のカール状の大斜面は感激するほど素晴らしい。自分達のシュプールが

広大な斜面についているのを見ると、これだから止められないなと思う。

 直ぐに傾斜は緩み谷の中の滑降になるが、これも快適。緩いターンを繰り返

しているだけで、どんどん周囲の景色が移り変わっていく。

 左の新建尾根がせまってくると前方に容雅山がみえてくる。円錐形の山容が

上越市辺りから見え、いつかいって見たいと思っているところだ。この辺りか

ら見るとまんじゅうのような円い恰好をしている。

 もうすぐ黒菱川出合かな、と思っていると突然雪がきれてしまう。けっこう

水量があり渡渉も容易ではなさそうだったので、どうしようかと相談する。ス

キーをザックにつけ、私が右のブッシュ付きの岩をへつってみるが途中で足を

滑らせ、足が川におちた。どうということの無い深さだったが、背中に付けて

いたスキーが水圧を受け、流心に引っ張りこまれて10m位流される。一瞬、

やばい状況になったなと思ったが、火事場の馬鹿力を出し、岸にはい上がる。

ずぶ濡れになったが、頭に血がのぼっていたので寒くはなかった。

 どうせ落ちたなら対岸に上がればよかったのだが、またもとの側に戻ってし

まったので、結局、スキーを対岸に放りなげ、人間は右岸のやぶをへつる。あ

とで考えてみると、ロープを持っていれば空身で先に渡り、荷物とスキーはロ

ープでやり取りするということが出来たのだが、この時は、2メートル位の細

引きが1本しかなかった。5メートル位の細引きを1人1本ずつ持つことは必

携かもしれない。

 ここからはスキーにならず、ザックにスキーをつけて、スノトレを履いて歩

く。途中で1回飛び石をするが、花岡が失敗し、ずぶ濡れになる。この時点で、

今日の目標は、明るいうちに車にたどり着く、ということに変更になった。し

かしこのような状況でも、加納典明の写真集の話題がでてくる花岡の図太さは、

山の中では貴重だ。発電所取水口からは巡視用の通路があるが、まともな登山

道ではない。しかも残雪に覆われており、ところどころ急なトラバースがある。

ピッケル、アイゼンの欲しい傾斜で、滑落したら2〜30メートルは落下しそ

うだ。十数回トラバースを繰り返すと尾根上にでたので、ここでスキーをはく。

 しかし雪はあるが、べたべたした樹液のようなものがスキーの裏側に付着し、

ちっともすべらない。20分ほどくだると、水槽小屋が突然現れる。ここでス 

キーを脱ぐ。

 ここから、妙高山の北面が見えるが夕暮れの光のなかに浮かび、とても美し

かった。しかし、一方私たちは、泥だらけで全く美しくない。送水管にそって

くだるが、これも急な雪がまだらに残り、スノトレでくだるのは恐ろしかった。

かと言ってスキーでくだれる程には雪がなかった。なかなか簡単には下山させ

てくれなかった。

 午後6時半に第3発電所に到着。ここからは林道をただ歩いて行けば良い。

いつもの年ならここまで車が入るはずだった。

 休むと濡れた体が寒いので、休まずにゆっくりと連続してあるく。だんだん

とくらくなり、もうヘッドランプかな、と思った7時20分、ようやく私の車

が暗闇の中に現れた。車のヒーターを最強にして電話のあるところまで下り、

家に電話を入れる。8時に近かった。

 ※ 澄川のいい所だけ味わうには、上部斜面をすべったら、再び登り返すほ

うが容易かもしれない。または、3月中であれば第3発電所まで谷の中

を滑降できるそうであるが、火打に入山することそのものがかなり大変

だと思われる。

 ※ 未知の谷をくだるのであれば、ロープ、ピッケル位はあったほうが望ま

しい。

ぶなの森同人これまでの記録

とりあえず