鉢山   文:nori  写真 山川徳明氏


1995年4月13日

20:30

 明日のために久しぶりにスキーにワックスをアイロンがけする。明日の予報はまずまず、期待できそうだ。

4月14日

5:00

 山川さんが、私の家に到着。北沢さんも一緒だ、久しぶりにお会いする。途中ローソンで昼飯を買った。今日の昼飯は鶏肉ご飯とおまけのウーロン茶、それからおやつにキュウリ巻きと納豆巻きもかった。きっと途中で腹が減るのは間違いない。先日の季節はずれの大雪で白馬三山は真っ白だ。杓子沢にはデブリが見えていたが、湿雪のために下までは来ていなかった。今日の北アルプスは最高だなと思ったが、先々週のリターンマッチなので来たアルプスを横目に国道148号線を北上した。

7:30 焼山温泉

 ”この前は何だったんだー??”と思うほど天気がよい。雲一つないまさに正しい日本晴れである。焼山、火打、阿弥陀、3年ぶりの景色だ。3年ほど前にキャンプで笹倉温泉に入りに来たことがある。先々週は雲でなにも見えなかった。早速出発の準備をする。同じことを考える人はいるもので、2つのパーティーが準備をしていた。一人は真っ黒けの見事なパンダちゃんでこれまでの山行が伺われる。雪質は良好でシールも良く効きそうである。そろそろ粘着力の落ちてきたシールを貼った。準備は完璧、天気も完璧、よしよし。

 3人で焼山温泉スキー場からルートを目指した。圧雪車がゲレンデを整備している。この季節にゲレンデを滑ることができるのも頸城らしい。まあ今年は例年に無い豪雪だった。穏やかなゲレンデを過ぎるととてもタイミングよくこれぞ日本の風景というようないい感じに朽ちている小屋を見つけた。地形からして多分田んぼど真ん中だ。しばらくして林道の入り口らしきところに到着。なにやら雪洞のようなものがあり、中を覗いてみると水路が3メートルほど下に見えた。すごい積雪だ。アケビ平までは、景色を楽しみながら緩やかな林道歩きだ。アケビ平はルート図集のような雪原ではなく、植林された杉が大きくなってしまったので、ルートファインディングが難しい。

 ちょっと見晴らしの良い所でで一休みし、杉のうるさい林を抜けると気分の良いまばらな広葉樹林となり、しばらく登り昼闇谷を横切る。昼闇谷はとても開けていて気分の良い斜面がある。尾根を図対に稜線を行くのだが、結構地形は複雑なので視界が悪いときは難しいと思われる。事実、先々週我々はこのあたりで悪天候のため引き返している。右手前方に小鉢山、さらに右側には阿弥陀岳と烏帽子岳がすばらしい。日本離れした景色である。烏帽子東綾からのアタックは手強そうに見えた。小鉢山直前で昼闇の稜線から降りてくるテレマーカーを見つけた。べたべたの湿雪にかなり手こずっている様子であった。

 山スキーをやっていると滑ろうとしているルートよりも更に魅力的なルートを運悪く?見つけてしまうことが良くある。今回もご多分に漏れず見つけてしまった。稜線から少し下り岩場のすぐ横の急なルンゼをエクストリームっぽく抜けると少し広いまばらな樺林といういかにも雪崩がでそうな、いやよだれのでそうなおいしい斜面を見つけてしまった。(後日山川さんが単独で滑った。)

 稜線に出るとじゃじゃーーーんという感じで鉢山が目に飛び込んできた。5時間以上のアルバイト、標高差は優に1000メートル稼いでいるのだが、周りは樺林でいつもとは雰囲気が違う。北アルプスとは違い、稜線でも標高1500メートルなのでこんな景色なのだ。日本海のたっぷり湿った雪のおかげか頂上直下はどでかい雪庇が発達している。しかも、新雪が岩壁を化粧し厳冬期の装いであった。ここで我々はクライマーに変身し、頂上を目指す予定であった・・・が、やせたナイフリッジで左は45度の一枚バーンしかも50センチの新雪付き。右はいつ崩れるかわからない1メートル以上張り出した雪庇。「雪崩れてもやだし、雪庇がくずれるのもやだし、やーめた。」というわけでこうゆう時の判断は実に早く途中で引き返すこととした。えせクライマーからスキーヤーにまたまた変身した我々は本日のメインイベントということで、新雪の中吉尾平めがけて滑り出した。

 しかし、良かったのは最初の30メートル程の間だけだった。ちょっと湿った新雪でまあまあ楽しめたのだが、後は表面かりかり中はふっくらのもなか状態で1000メートルのアルバイトで疲れた足にはかなり応えた。しかし、目前の阿弥陀、烏帽子を見ながらの滑走は最高の気分であった。

途中、「どーん」とどこかで雪庇が落ちる音が聞こえる。春である。鉢山東面は頂上直下から約40度程の一枚バーンが続いている。頂上からの出だしの急斜面を降りれば素晴らしいバーンが待っている。ただし、雪崩の危険のある時は絶対立ち入ってはならない。

なだらかな斜面を最小限の力で滑り降りる(つまり、曲がらず、止まらず、斜滑降)沢を2つ越えると朝登ってきたアケビ平上部に飛び出す。そのあとは、トレールに沿ってジェットコースターよろしく降りるだけだ。あっという間に焼山スキー場に着くが、今朝圧雪したバーンは一つもシュプールが無く、夕方滑った私たちがその日の最初のお客さんになったらしい。

 スキーを脱げば、後はおきまりの温泉だ。前回退散したときは、焼山温泉だったので、今回は笹倉温泉とした。小振りな温泉だが、湯ノ花が浮いていて良い気分であった。焼山温泉では着替えを忘れ汗でびしょびしょな下着を着て帰ったが、今回は忘れずに着替えを持ってきたので、感謝感激の温泉だった。

 外はもうすでに暗く、腹も減ったので帰りの途中でラーメン屋に入った。脱水症状の私にキリンラガービールは色っぽい声で囁く。しかし「山川さんに運転してもらってるし、みんな飲みたいんだろーなあ・・・がまんがまん。」と1秒いや3秒ほど迷ったが、つい言ってしまった。

 「すいませーん。キリンビール。それからギョーザ」

結局2本飲んでしまった。ごめんなさい。

コースタイムは忘れちゃったので省略します。白馬、長野市から日帰り圏内です。

とりあえず